低温薬品輸送における温度管理の注意点とは?冬季と夏季での具体例
GDPとは、医薬品の適性流通基準(Good Distribution Practice)を指します。医薬品が製造工場から出荷され、市場流通していく過程の品質保証水準を補完したものであり、保管中から輸送中まで品質管理の徹底を求めています。
品質保証のなかでも重視されるのが、温度管理です。今回は、冷所保管及び冷蔵輸送が求められる+2~+8℃という厳しい管理温度帯に特筆してみたいと思います。まずは、実際に私たちが頻繁にお問い合わせをいただく内容について紹介させていただきます。
▼+2~+8℃の管理幅を逸脱した場合、当該医薬品は使用できなくなるばかりか、廃棄しなくてはなりません。+2~+8℃で輸送できる保冷ボックスを教えてください。
▼医薬品の冷蔵輸送専用の保冷ボックスがあれば、提案してもらえませんか?
▼+4℃、もしくは+5℃で医薬品を輸送するコツを教えてください。
低温管理、かつ許容管理幅が狭い「低温薬品輸送」。いったいどのような保冷ボックスが最適なのでしょうか。以下では、私たちキラックスが携わらせていただいた輸送事例のテスト結果を取り挙げながら、資材選定のヒントにしていただける要点を解説していきます。是非とも最後までご一読ください。
―目次―
1.+2~+8℃管理/冷蔵輸送を知る
1-1. 冷蔵輸送の要点
1-2. 低温薬品輸送で気をつけたいこと
2.ネオシールドが選ばれる理由
3.冬季(寒冷地)を想定したテスト事例
3-1. テスト条件/冬季(寒冷地)編
3-2. 結果と所感/冬季(寒冷地)編
4.夏季を想定したテスト事例
4-1. テスト条件/夏季編
4-2. 結果と所感/夏季編
5.まとめ
1.+2~+8℃管理/冷蔵輸送を知る
医薬品物流の場合、食品物流とは一線を画した厳密さが存在します。+2~+8℃の冷蔵輸送の場合、低温管理を求められているからといって、冷やし過ぎて凍らせてしまっては話になりません。凍結させてしまうと、変質するだけでなく、カートリッジ等が破損する可能性も考えられます。これを「禁凍結」と呼称します。
とにかく低い温度で輸送すればいいというわけではなく、あくまで+2~+8℃の管理幅を維持することが絶対条件となります。目標管理温度が明示されている場合は、それに対して許容管理幅が設けられているはずです。資材の選定を左右しますので、上限温度と下限温度が設定されている場合は、必ず確認しておきましょう。
1-1.冷蔵輸送の要点
第十六改正日本薬局方の通則第15項には、各温度が次の通り定められています。
・標準温度、+20℃
・常温、+15~+25℃
・室温、+1~+30℃
・微温、+30~+40℃
・冷所、+1~+15℃ (但し、別に規定するものあり)
夏の暑い日は室温保管の医薬品でも簡単に温度逸脱してしまいます。このことから分かるように、管理温度を維持するために注視すべきは、輸送する際の周囲環境温度(外部温度)といえます。いったい何℃環境のなかで輸送するのか。周囲環境(外)と管理目標温度(内)が何℃乖離しているのか。この条件次第で輸送レベルは大きく変わってきます。
詮ずるところ、冷蔵輸送においても、周囲環境温度が何℃であろうと、必ず+2~+8℃の範囲内で維持することが必須となります。冬季、もしくは寒冷地においては、冷えすぎて凍結しないよう留意しなければなりません。夏季においては、周囲環境に引っ張られて温度上昇しないよう留意しなければなりません。
1-2.低温薬品輸送で気をつけたいこと
医薬品の冷蔵輸送において肝要なのは、低温であることにくわえ、上限と下限がしっかりと設定されている点です。常温輸送は「凡そ何℃」というケースが散見されますし、冷凍輸送は「-20℃以下」と下限が明示されていないケースが数多あります。冷蔵輸送は+4~+5℃の維持を目標としつつ、上下限の範囲内で必ず収めなければなりません。医薬品輸送において一番ご相談をいただくケースが、この冷蔵輸送です。
輸送時間や医薬品の性質、その他条件を考慮しながら最適なボックスを設計する必要がありますが、+2~+8℃で冷蔵輸送する際、必ず気をつけておきたい8つのポイントとして、下記にまとめました。
輸送直前まで冷蔵設備でどれだけしっかり保管できていたとしましても、周囲環境温度が高ければ、低温薬品は周囲の熱を奪い、自らの温度を上げてしまいます。周囲環境の熱を奪わない(夏季)、周囲環境に熱を奪われない(冬季/寒冷地)。そのためには、最適なグレードと厚さの高性能断熱材を選定しなければなりません。周囲環境の影響をどれだけ遮ることができるか。断熱ボックスの設計要件といえます。
※関連コラム“常温薬品輸送における温度管理の注意点とは?冬季と夏季での具体例“
2.ネオシールドが選ばれる理由
+2~∔8℃の管理幅を逸脱してしまった場合、医薬品は変質してしまう可能性があります。それにより十分な効果が期待できなくなるばかりか、身体に思わぬ有害な影響を与える可能性があるため、管理温度を逸脱した医薬品は廃棄処分されることになります。医薬品は価値が高く、希少性がある場合も珍しくありません。これらを鑑みると、輸送は厳格な管理のもと行われて当然といえます。断熱性と遮光性と気密性に優れる断熱ボックス「ネオシールド」が、これまで採用されてきた理由もここにあります。
輸送時間が比較的長い場合や、周囲環境温度と容器内(+2~+8℃)が大きく乖離している場合は、断熱材のグレードを上げたり(熱伝導率や比熱が優れるものを選定)、断熱材の厚みを変更する等しまして、適宜、最適な容器を設計しています。
ネオシールドの採用事例の一つに、血液輸送があります。「赤血球製剤」「全血製剤」においては、+2~+6℃の厳格な管理が求められますが、+4℃管理に対して許容管理幅は±2℃と設定されています。しかし、許容管理幅を目一杯使ってしまうと+2℃(+6℃)を0.1℃でも外した瞬間に温度逸脱となってしまうため、実際の現場では、+2.1~+5.9℃の範囲内で管理されるケースが珍しくありません。このような厳しい温度管理の現場で活躍しているのが「ネオシールド」なのです。
3.冬季(寒冷地)を想定したテスト事例
医薬品輸送を担う物流会社様から、「0℃を下回る寒冷地で、長時間+2~+8℃を管理したい」とご要望いただき、弊社恒温室で温度テストした事例をご紹介させていただきます。こちらは、断熱ボックス「ネオシールド」の仕様設計と蓄熱剤の投入量に見当をつけ、その妥当性を検証した事例となります。
3-1.テスト条件/冬季(寒冷地)編
・管理温度:+2~+8℃
・周囲環境温度:-4℃ (恒温室の温度設定)
・初期温度:+9℃ (検体表面/スタート時)
・容器:ネオシールド×2 ヶ(ダブルボックス仕様)/キラックス製
・検体:水を入れたガラス瓶×5本、1本あたり@100ml程度
・1次側(内ボックス):フェノールフォーム40m/m厚/約8L程度
・2次側(外ボックス):フェノールフォーム80m/m厚/約32L程度
・測定ポイント①:検体表面 (ガラス瓶の表面)
・測定ポイント②:空間温度 (内ボックスの中央付近)
・蓄熱剤(内ボックス):+5℃グレード/1,000gタイプ、2ヶ投入
・蓄熱剤(外ボックス):+5℃グレード/500gタイプ、4ヶ投入
・蓄熱剤の予冷:+8℃設定の冷蔵設備で12時間以上
・検体の予冷:+8℃設定の冷蔵設備で12時間以上
・ネオシールドの予冷:+8℃設定の冷蔵設備で12時間以上
↑1次側/内ボックス
↑2次側/外ボックス
3-2.結果と所感/冬季(寒冷地)編
・空間温度は、テスト開始から約2時間後に+8℃を潜る。
その後、50時間経過まで+2~+8℃を維持。(48時間維持)
・検体表面温度は、テスト開始から約7時間後に+8℃を潜る。
その後、50時間経過まで+2~+8℃を維持。(43時間維持)
テスト開始時の初期温度(検体表面)が+9℃を超えていたため、開始時に+2~+8℃内に収まっていないなかでの試験結果となっています。当該結果は参考扱いながら、長時間管理を考慮したうえで、断熱材のグレードと厚みを適宜選定できた事例であり、蓄熱剤の投入量についても最適に近しいことが窺えます。
4.夏季を想定したテスト事例
大手医薬品卸会社様から、「空間(雰囲気)温度を+2~+8℃で維持できる断熱ボックスを開発して、使用する蓄冷剤と蓄熱剤の投入量についても目安をつけてほしい」とご依頼をいただき、弊社恒温室で温度テストした事例をご紹介させていただきます。こちらは、断熱ボックス「ネオシールド」の仕様設計にくわえ、蓄冷剤と蓄熱剤の温度グレードと投入量に見当をつけ、その妥当性を検証した事例となります。
4-1.テスト条件/夏季編
・管理温度:+2~+8℃
・周囲環境温度:+28℃ (恒温室の温度設定)
・初期温度:+5℃ (ダミー貨物/スタート時)
・初期温度:+23℃ (ネオシールド内の空間/スタート時)
・容器:ネオシールド(約60L)/キラックス製
・検体:なし
・負荷:あり/ダミー貨物7.5kg (@500g×15ヶ)
・断熱材:フェノールフォーム40m/m厚
・測定ポイント①:空間温度 (ボックスの上部雰囲気)
・測定ポイント②:空間温度 (ボックスの中央雰囲気)
・測定ポイント③:空間温度 (ボックスの下部雰囲気)
・蓄冷剤:0℃グレード/1,000gタイプ、4ヶ投入
・蓄熱剤:+5℃グレード/300gタイプ、4ヶ投入
・蓄冷剤の凍結:-20℃設定の冷凍設備で12時間以上
・蓄熱剤の予熱:+23℃設定の恒温設備で12時間以上
・検体の予冷:+5℃設定の冷蔵設備で12時間以上
・ネオシールドの予熱::+23℃設定の恒温設備で12時間以上
4-2.結果と所感/夏季編
・外気温(環境温度)+28℃において、ネオシールドの庫内を概ね+2~+8℃で維持することができた。
・蓄冷剤/蓄熱剤の温度グレードと投入量。概ね、この妥当性を検証することができた。
・管理基準を空間(雰囲気温度)ではなく検体(品温)とする場合は、再度、検証を行う必要がある。
・テストパッケージ(ダミー貨物)が入っていない無負荷状態で検証する場合は、別途テストを行う必要がある。
空間温度の初期温度が+23℃だったため、テスト開始時は+2~+8℃内に収まっていませんが、13時間計測したうちの凡そ12時間以上は+2~+8℃内で管理できていることが確認できます。+5℃で予冷されたテストパッケージ(ダミー貨物)が入った有負荷の状態であることも、当該結果の妥当性を証明する後押しにはなっていますが、総じて、顧客方からご依頼いただいた開発内容にお応えすることができています。
5.まとめ
今回は、低温薬品輸送における温度管理の注意点について解説し、冬季(寒冷地)と夏季を想定した温度テスト事例についても紹介をさせていただきました。要点は、お分かりいただけましたでしょうか。
医薬品及びメディカル分野において最もご相談をいただく機会が多い+2~+8℃管理ですが、常温薬品輸送と同様に輸送条件の数だけ、資材の準備も無数にパターンが存在します。汎用的に+2~+8℃を管理できる資材というものは、そもそもご用意がありません。条件に見合った「ちょうどいい」最適資材を適宜選定することこそが温度管理において重要だといえます。
医薬品輸送においては、多くの場合、実際に運用を開始する前に資材の妥当性を担保する必要があります。キラックスでは、こうした最適資材の選定から、温度テストにおける妥当性の検証まで、トータルコーディネートでお手伝いをさせていただきます。現在、お問い合わせいただいた方には、定温輸送事例集「キラの巻 vol.3」を進呈しています。是非とも弊社営業までお気軽にお問い合わせください。
※現在、お問い合わせいただいた方には、
「キラの巻 vol.3/定温輸送事例集」を進呈中です!!
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