コールドチェーン|当たり前になった物流システムに潜む課題とは
世界的パンデミックに陥って早2年が経過しました。ましてや、コロナ禍にあって戦火とはやりきれません。そうしたなかにあっても食品物流に関わる企業は、新型コロナウイルス感染症がもたらした経済的および社会的影響の様々な側面を理解し、消費者の求めるニーズを予測し、準備し、即時行動に移していかなければなりません。
新しい生活様式に変化してきたなかで食の嗜好や食事の量が変わった方も多いことかと思いますが、食品の物流網は毎日休むことなく稼働しています。日々の食事が、プロセスセンター、セントラルキッチン、物流センター、外食店舗、食品スーパー(SM)等々、数多拠点を通過してようやく私たちの口へと運ばれていることを忘れてはなりません。
現在、国内のサプライチェーンにおいては冷凍帯でも冷蔵帯でも管理温度を一定に保つことができる「コールドチェーン」の構築・整備が進み、その市場も拡大しています。「冷凍調理食品」とは、一般家庭用のほかレストラン、スーパー、コンビニで使用される業務用も含み呼称されますが、日本冷凍食品協会の統計によれば、こうした「冷凍食品」の製品出荷額はコロナ禍を機に増加傾向にあり、統計開始以降、初めて家庭用が業務用を上回ったとしています。
巣ごもり生活においても消費者が安心して手軽に冷凍食品を口にできている背景には一貫して低温を保持して流通させる物流システムの発展と普及がありました。今回は、いまや欠かすことのできない世の中の基盤になった「コールドチェーン」について解説し、知っておくべき課題とその解決策についても紹介をさせていただきます。
■目次■
1.コールドチェーン(低温物流体系)とは?
2.コールドチェーンがもたらすメリット
3.コールドチェーンに潜む課題
3-1.コストの懸念
3-2.一定の温度管理に伴う高い技術力
3-3.意識共有の難しさ
4.コールドチェーンの課題解決策とは?
4-1.プロへの外部委託
4-2.作業内容の簡略化とスキル平準化の徹底
4-3.高性能保冷ボックスの最適運用
5.まとめ
1.コールドチェーン(低温物流体系)とは?
コールドチェーンを日本語に置き換えると、「低温流通体系」もしくは「低温ロジスティクス」と表現されます。冷凍食品やチルド食品といった低温管理が必要となる商品を生産(加工)・輸送・消費の過程において途切れることなく管理温度を維持したまま流通させる仕組みであり、管理温度の維持により商品の品質を落とすことなく最終到着地である消費者まで届けることを可能にした食品物流の手法の一つです。
低温を維持したまま各プロセスを鎖のように繋いでいる様からコールド(cold)の後にチェーン(chain)という単語が続いています。また、現在では、冷凍食品やチルド食品に限らず、医薬品や血液バッグ、その他電子部品等の配送シーンでもコールドチェーンが採用されており、私たちが日常生活を送るために欠かせない物流システムとなっています。
2.コールドチェーンがもたらすメリット
常温流通が低温流通に変わることでもたらす最大のメリットは、食品の品質維持と食品廃棄ロスの削減です。冷凍帯でもチルド帯でも、商品の最適温度を維持したまま保管・流通させることができれば、品質劣化を防ぎ、食品の販売期限を大幅に延長します。鮮度を保持するだけでなく、賞味期限や消費期限を延ばすことができれば不要に食品を廃棄する必要がなくなります。
管理温度を逸脱しかねない常温流通は短期間で配送しなければなりませんが、コールドチェーンを構築・整備すれば長期間にわたり保管・流通させることができるため、食品ロス(フードロス)を引き起こしづらくなります。限りある食品・食材を無駄なく消費することはSDGsの目標達成にも貢献します。また、食品の廃棄にかかるコストも削減できるので、企業にとっては有益な仕組みといえるでしょう。
食品の品質維持がもたらす効果はそれだけではありません。コールドチェーンが普及する以前は品質維持の観点から遠方への輸送が困難とされていました。食品の配送先は比較的、生産地・加工先の近くに限定されていましたが、コールドチェーンの整備が進んだことで低温を維持したまま食品を全国各地へ輸送することができるようになりました。生産地や加工先の近くでしか購入することができなかった商品も今や遠隔地で簡単に購入することができます。このことは、商品を取り扱う企業の販路拡大に繋がっています。
3.コールドチェーンに潜む課題
コールドチェーンの発展と普及により、私たちはスーパーやコンビニで手軽に新鮮な食品を購入することができるようになりました。外食チェーン店では昼夜問わず豊富なメニューから食べたい料理を選ぶことができるようになりました。こうして食品物流に浸透したコールドチェーンではありますが、食品物流に携わるすべての企業がコールドチェーンを構築できているわけではありません。また、一見、コールドチェーンを整備したかに見えても、プロセスの途中で低温物流を繋ぎきれていないケースが散見されます。良いことばかりのコールドチェーンに潜む課題は何なのでしょうか。下記の通り、3つの観点から課題を取り上げてみます。
3-1.コストの懸念
前提として、低温を維持するためにはコールドチェーンを万全に整備していなければなりませんが、食品それぞれに適した温度帯の倉庫・作業環境・車両を準備することになるため、それ相当の設備投資が必要となります。生産(加工)・輸送・消費のプロセスのなかに常温環境を挟んではならないわけですから、通常の物流よりも高額になって当然です。
また、生産(加工)段階におけるスムーズな業務フロー、迅速な輸送を可能にする配送ルート、電気などのインフラといった設備投資以外の最適化も考慮すると、付帯費用だけでなく時間的な負担も避けられません。
このようにコールドチェーンの構築・整備には多額の初期投資と準備期間が必須となるため、長期間にわたり安定的な荷量を見込める算段がない限りは大きなリスクを背負うことになります。つまり、膨大な費用を投じてもそれを回収できるほどの大規模な物流業務であれば自社でコールドチェーンを構築・整備する価値がありますが、費用対効果が見合わないのであれば当然ながら現実的な方策とはいえません。
短期間の場合や、安定的な荷量が見込めない場合は、コールドチェーンに対応しているプロの物流会社へ外注した方が賢明と言えるでしょう。
3-2.一定の温度管理に伴う高い技術力
コールドチェーンは、生産(加工)の初期段階から消費の最終段階まで一定の温度を保ち続けなければなりません。冷凍食品は-18℃以下の低温を維持しなければなりませんし、チルド品は現在食品別に最適な管理温度が設定され、通常0~+10℃の温度帯を維持しながら流通しています。
プロセスのどこか一段階でも温度を逸脱すれば品質に影響を与えてしまうケースが多いことから、品質維持のためには、コールドチェーンに携わるすべてのスタッフに高い技術力が要求されます。
コールドチェーンを構築・整備した後、業務フローや配送ルートをどれだけ綿密に設定したところで、イレギュラーは必ずと言っていいほど発生します。人為的ミスが原因で食品が予冷されていなければ出荷段階から早々と品質の維持を担保できませんし、交通事情により車両到着が遅れればその後のスケジュールは後倒しになります。いつもは開いているはずの店舗のバックヤードが施錠されていれば想定外に食品を野晒しにすることだってあるかもしれません。
決められたルールを遵守しながらミスなく業務し、イレギュラーが起きても臨機応変に対応し、何もなかったかのように川下の最終到着地まで食品が届けられて当たり前。いまや世の中の食品物流に浸透したコールドチェーンは、低温とともに「当たり前」も維持しなければならないのです。
3-3.意識共有の難しさ
日配品であれば新しい商品を手配して送り直すこともできるでしょうが、それは費用と時間のロスでしかありません。季節商戦の商品なら、なおのことハイリスクです。季節商品は送り直しがきかないことも多く、取り返しのつかないトラブルに発展しかねません。
「クリスマスケーキ」や「おせち料理」のような商品は当日に消費してこそ価値があるため、あるべき姿と品質でその日までに届かなければ、最終、廃棄処分になってもおかしくありません。コールドチェーンを繋ぐ目的が最初から最後まで共有されていなければ、人為的ミスによる温度逸脱と配送ミスは簡単に起きてしまいます。
世界トップクラスの物流システムを誇る日本でも、その物流体系に携わる人間すべてが仕組みや意味合いを理解できているわけではありません。各プロセスが然るべき責任のもと低温を繋いで次へバトンすることでコールドチェーンは成立します。言い換えれば、一部少人数だけが高い意識のなか業務していても成立しないのがコールドチェーンの特徴でもあります。
流通プロセスに関わるすべての人間が品質管理に対して高い意識と注意力を持ち、それが同じレベルで共有されていなければなりません。顔も見えない次のプロセスのスタッフへしっかりとバトンを繋ぐことは容易そうに見えて、実際には非常に難易度の高い業務と言えます。
4.コールドチェーンの課題解決策とは?
食品物流の基盤となったコールドチェーンの需要は日増しに高まっており、これからも当然の物流システムとして期待されていくことでしょう。しかし、コールドチェーンが浸透すればするほど潜んでいた課題は浮き彫りになり、その解決策を探す企業が増えていることも事実です。
環境問題が叫ばれる近年ですから、コールドチェーンを整備する企業としては温暖化対策についても無視することはできません。「物流の2024年問題」といった諸問題も突き付けられるなかで、食品低温流通を実現させたい企業は目の前の課題をいかにして解消していけば良いのでしょうか。下記3つの解決策が課題解決と向き合うきっかけになれば幸いです。
4-1.プロへの外部委託
コールドチェーンで食品物流を行う目的は、前述の通り、品質の保持・販売期限の延長・食品ロス(フードロス)の削減・販路拡大にあります。多額の設備投資を要するコールドチェーンをどうにか自社で構築・整備しようと躍起になるべきではありません。優先すべきは、商品を川上から川下まで低温を維持したまま輸送することです。自社と親和性高い物流会社を選定し外部委託することで、コストを抑え高品質のまま輸送できる可能性は高くなります。コールドチェーンがもたらすメリットを最大限に享受することを念頭に置くべきでしょう。
4-2.作業内容の簡略化とスキル平準化の徹底
物流業界の2024問題が差し迫るなか、ドライバーの低賃金が顕著になればコールドチェーンに与える影響も少ないとは言えません。もともと人手不足が問題視されていた物流業界においてドライバー人口がこのまま減少の一途をたどり続ければ、EC市場の活性化が起こした物流業界全体の物量増加と相反することになります。
この人手不足の問題はドライバーに限定した問題ではなく、ピッキング担当者やフォークリフト作業員にも共通しています。一人あたりの仕事量が増えることで生産性が低下し、生産性の低下によりさらに労働者の負担が増しているわけですが、長時間労働かつ低賃金という働き方が蔓延したことで人材の確保を長きにわたり遮っていることは間違いない事実です。付け加えるなら、業務内容の多様化や細分化が仕事内容のレベルを押し上げ、従来よりも業務を煩雑にしてしまったことも人手不足を招いた要因と言えるでしょう。
人手不足を解消するためにドライバーやスタッフの賃金をアップすれば、物流会社は収益の減少を補填しようと荷主への請求額をアップします。安直な賃金アップは、荷主へ直接的に影響を与えますから得策とはいえません。データやシステムといったソフト面、パレットやオリコンといったマテハン機器をはじめとするハード面の双方を標準化し、誰しもが簡単に使いこなせる環境を作るべきです。
年齢・性別・国籍を問うことなく作業できる環境を作ることは、人為的ミス(ヒューマンエラー)の発生も抑止します。作業を簡略化し業務スキルを平準化することは物流効率化に向けた取り組みであり、コールドチェーンを含むすべての物流課題に共通して言える最たる解決策なのです。
4-3.高性能保冷ボックスの最適運用
予期せぬ配送トラブルはどれだけ注意しても向こうからやってくるものです。どれだけ人為的ミスを抑制しても、天候不良や交通事情によっては低温を維持できなくなる可能性が考えられます。「備えあれば憂いなし」ではありませんが、不測の事態にも対処できるよう日頃からプラスワンを講じることが得策と言えます。
商品サイズやピッキング体制により配送時の荷姿は異なりますが、いまのコールドチェーンをより安心・安全なフェーズに上げるには「高性能保冷ボックス」の活用が有効策と言えるでしょう。押出発泡ポリスチレンフォーム断熱材や熱伝導率に優れた真空断熱材を使用する業務用の保冷ボックスは、アウトドアシーンで使われる保冷ボックスとは一線を画します。
広域流通の多いコールドチェーンにおいては、次のプロセスへ繋ぐバトンの回数が多い分、温度上昇のリスクも増加します。冷凍車・冷蔵車を使用してもトラックの荷室を開閉する頻度が多ければ多いほど荷室の空調は安定しません。店舗到着後にドライバーが低温倉庫へ商品を格納する作業が伴えば、外気温に晒される時間も増えるはずです。
コールドチェーンの鎖と鎖の繋ぎ目(リスク)を想像してみると、保冷ボックスの有効性が伝わりやすいかもしれません。外食チェーン・コンビニ・スーパーの店舗配送のほか、冷凍食品を取り扱う企業でも多く使われていますが、「高性能保冷ボックス」はリスク回避を講じるための最適資材の一つと言えます。
5.まとめ
以上のように、今回はコールドチェーンの意味を理解し、食品物流に根付いてきた背景で浮き彫り化した課題を取り上げ、その解決策についてもご説明しました。荷量や車両数といった輸送規模の大小で計るのではなく、適宜見合ったコールドチェーンを構築・整備することが大切です。
最適かつ低リスクのコールドチェーンを構築・整備するためには、高品質を維持したまま食品を流通させるという前提のもと、自社の特性や強みと親和性ある方法を選択することが重要ですが、コールドチェーンがもたらすメリットを最大限に享受することを基準に据えれば、外注先や手段も取捨選択しやすくなるかもしれません。
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