常温薬品輸送における温度管理の注意点とは?冬季と夏季での具体例
食品物流と同様に、医薬品・検体・血液等も365日休むことなく日本全国で輸送されています。病院や診療所から処方された薬、市販の医薬品(OTC医薬品)、医療機関から預かった患者の検体、献血や血液製剤、その他にも医療に関わる大変多くの医薬品が輸送されています。実際に私たちがご相談を受けてきたお悩みや課題は、下記のような内容です。
▼管理温度に対して許容される上限と下限の範囲が狭く、輸送中における温度管理のレベルが非常に高い。
常温を維持するためには、どのような資材を使用すればいいのか?
▼輸送する医薬品自体の製品単価及び価値が高いため、温度逸脱による変質は絶対に避けなければならない。
常温薬品の輸送方法と資材を担保するには、どうしたらいいのか?
▼冬季でも夏季でも変わらず常温を維持するために輸送中に注意すべきポイントは何か?
医薬品関係は製品単価が高いだけではなく、検体や血液となれば代替がきかないため、希少価値が付帯することも珍しくありません。こうした医薬品関係は、いったいどのようにして輸送すればいいのでしょうか?今回は、私たちキラックスが携わらせていただいた輸送事例を取り挙げながら、常温薬品輸送で遵守したい要点を解説していきます。
キラックスは、保冷ボックスの製造元メーカーです。私たちだからこそ知る「常温薬品輸送」の世界。今回の記事を参考にしていただくことで、輸送中に気をつけるべきポイントや資材の選び方をご理解いただけることと思います。是非とも最後までご一読ください。
―目次―
1.「常温薬品」は何℃で管理すればいいのか?
2.常温薬品輸送で気をつけたいこと
2-1. ネオシールドが選ばれる理由
2-2. 温度バリデーションによる妥当性の検証
3.冬季の輸送で気をつけたいポイント
3-1.冬季の輸送事例/ケース1
3-2.冬季の輸送事例/ケース2
4.夏季の輸送で気をつけたいポイント
4-1. 夏季の輸送事例/ケース1
4-2. 夏季の輸送事例/ケース2
5.まとめ
1.「常温薬品」は何℃で管理すればいいのか?
食品物流ではスタンダード化しつつある「置き配」。しかし、医薬品物流において、それが許されるわけはありません。人手から人手で受け渡しされ、誰が輸送し、誰が受け取ったか、その過程がトレースできるような輸送スキームのなかで、医薬品は運ばれています。
薬の保管方法の詳細は、「日本薬局方」によって定められていますが、厚生労働省が紹介している内容を一部抜粋すると、日本薬局方は、「医薬品の性状及び品質の適正を図るため、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書」と記載されています。
第十六改正日本薬局方の通則第15項には、各温度が次の通り定められています。
・標準温度 → +20℃
・常温 → +15~+25℃
・室温 → +1~+30℃
・微温 → +30~+40℃
・冷所 → +1~+15℃ (但し、別に規定するものあり)
しかし、日本薬局方が定めるものと別の定義も存在します。日本産業規格(いわゆるJIS規格)においては、常温を+20℃±15℃(+5~+35℃)の範囲として規定しています。尚、日本産業規格は、常温とは別に、試験目的に応じて標準状態における温度を+20℃、+23℃、+25℃と具体的に3つ定めています。
異なる定義が存在はしますが、今回は医薬品輸送における温度管理について解説をしてまいりますので、日本薬局方に則って+15~+25℃を基準に話を進めていきたいと思います。
2.常温薬品輸送で気をつけたいこと
前述の通り、+15~+25℃の範囲内で温度管理していくわけですが、管理幅から逸脱しないことが最も重要です。注視すべきは、輸送する際の周囲環境温度(外部温度)です。いったい何℃環境のなかで輸送するのか。周囲環境(外)と管理目標温度(内)が何℃乖離しているのか。これら次第で輸送レベルは変化します。
また、常温を+15~+25℃と定義づけしていますが、輸送する医薬品及びその品目によっては、管理温度と上下許容幅が明確に設けられている場合があります。例えば、血小板製剤は、管理温度を+22℃とし±2℃以内を許容幅と設定されていますので、+20~+24℃の範囲内で振盪させながら輸送(保管)しなければなりません。
【常温=+15~+25℃】と一括りに解釈せず、推奨される管理温度を把握しておくことも重要なポイントといえるでしょう。ここで、常温薬品輸送で気をつけたい8つのポイントをご紹介します。
2-1.ネオシールドが選ばれる理由
高温多湿のなかで輸送すれば、医薬品は変質してしまう可能性があります。それによって十分な効果が期待できなくなるばかりか、身体に思わぬ有害な影響を与える可能性があるため、輸送は厳格な管理のもと行わなければなりません。断熱性と遮光性と気密性に優れるネオシールドが、これまで採用されてきた理由もここにあります。輸送中の温度をモニタリングされたい場合、温度計や温度ロガーを取り付けることも可能です。
2-2.温度バリデーションによる妥当性の検証
常温薬品を輸送する資材が決まったら、実際に運用を開始する前に「温度バリデーション」を実施しましょう。温度測定箇所(センサ位置及び本数)、無負荷(容器内が空の状態)、有負荷(容器内がほぼ満杯の状態)、冷媒と熱媒の投入量、測定時間、測定機器、管理温度及び許容幅等といった基準や手順をあらかじめ設定し、計画書を作成します。計画書に基づきバリデーションを実施し、それら条件が正しいか否か、妥当性を検証していきます。
一定の容積の空間温度分布を測定することを温度マッピングといいますが、容器内の複数ポイントを温度マッピングすることで雰囲気(空間)の温度を評価することが可能です。これにより、輸送中に温度モニタリングする際のセンサ位置(※1高温部/※2低温部)を決定し、当該位置を以て温度管理していくことになります。温度マッピングは、重要かつ有効な評価方法といえます。
※1) 高温部:容器内で最も温度が高かった位置、ホットポイント
※2) 低温部:容器内で最も温度が低かった位置、コールドポイント
厚生労働省は、2018年に国際基準に基づいた日本版GDPガイドラインを発表しています。これにより、日本国内でも輸送・保管中における医薬品に厳格な温度管理が求められるようになりました。温度バリデーションは、採用した資材の性能や、あらかじめ設定した基準や手順の適格性を評価することができるため、運用前・運用中・運用後に実施することで、輸送中の品質を担保することができるといわれています。
3.冬季の輸送で気をつけたいポイント
冬季は周囲環境温度(外部温度)が低いため、温度を下げないための注意が必要です。断熱性かつ遮光性に優れるネオシールドのような断熱ボックスの採用が求められます。また、外部温度(外)と管理温度(内)が何℃乖離することになるのか、輸送時間はどれくらいかかるのか、これら条件を鑑みつつ、ネオシールドの断熱材を適宜選定します。また、容器内に蓄熱剤を投入することも非常に効果的といえます。
3-1.冬季の輸送事例/ケース1
・管理温度:+20℃
・許容範囲:管理温度に対して±5℃/+15~+25℃
・周囲環境温度:+5℃
・初期温度:+20℃ (スタート時)
・容器:ネオシールド×2 (ダブルボックス仕様)/キラックス製
・1次側(内ボックス):押出発泡ポリスチレンフォーム30m/m厚/約25L程度
・2次側(外ボックス):押出発泡ポリスチレンフォーム50m/m厚/約60L程度
・測定ポイント:雰囲気温度 (空間中央あたり)
・蓄熱剤:+18℃グレード(融点)/1,000gタイプ
・投入枚数:6ヶ
≪結果≫ 8h以上、+15~+25℃範囲内を維持
3-2.冬季の輸送事例/ケース2
・管理温度:+20℃
・許容範囲:管理温度に対して±5℃/+15~+25℃
・周囲環境温度:+5℃
・初期温度:+22℃ (スタート時)
・容器:ネオシールド/キラックス製
・内容積:約20L程度
・断熱材:フェノール系発泡30m/m厚
・検体:貨物@500g×10ヶ
・測定ポイント:品温
・蓄熱剤:+25℃グレード(融点)/1,000gタイプ
・投入枚数:1ヶ
≪結果≫ 10h以上、+15~+25℃範囲内を維持
4.夏季の輸送で気をつけたいポイント
夏季は周囲環境温度(外部温度)が高いため、温度を上げないための注意が必要です。夏季の輸送においても、断熱性かつ遮光性に優れるネオシールドの採用は有効です。こちらも条件次第で断熱材を適宜選定しますが、夏季だからといって蓄冷剤を投入するのではなく、外部温度を遮熱しつつ、守りたい管理温度に見合った蓄熱剤を最適量だけ投入することが重要です。
4-1.夏季の輸送事例/ケース1
・管理温度:+20℃
・許容範囲:管理温度に対して±5℃/+15~+25℃
・周囲環境温度:+20~+35℃を推移/最低+20℃/最高+35℃
・初期温度:+20℃ (スタート時)
・容器:ネオシールド/キラックス製
・内容積:約110L程度
・断熱材:押出発泡ポリスチレンフォーム30m/m厚
・検体:貨物@50g×20ヶ
・測定ポイント:品温
・蓄熱剤:+20℃グレード(融点)/1,000gタイプ
・投入枚数:4ヶ
≪結果≫ 8h以上、+15~+25℃範囲内を維持
4-2.夏季の輸送事例/ケース2
・管理温度:+18℃
・許容範囲:下限+15℃/上限+25℃
・周囲環境温度:+35℃
・初期温度:+18℃ (スタート時)
・容器:ネオシッパー+ネオシールド (ダブルボックス仕様)/キラックス製
・1次側(内シッパー):発泡ポリエチレンマット8m/m/約7.5L程度
・2次側(外ボックス):押出発泡ポリスチレンフォーム40m/m厚/約35L程度
・測定ポイント:雰囲気温度 (空間中央あたり)
・蓄熱剤:+18℃グレード(融点)/500gタイプ
・投入枚数:8ヶ
≪結果≫ 4h以上、+15~+25℃範囲内を維持
5.まとめ
今回は、常温薬品輸送における温度管理の注意点について解説し、実際の輸送事例についても紹介をさせていただきました。要点は、お分かりいただけましたでしょうか。何℃環境のなかで、何時間、何℃を維持したいか。輸送条件の数だけ、資材の準備も無数にパターンが存在します。
こと医薬品の輸送となれば、その管理基準も厳格になりますが、常温薬品においては定義次第で管理温度の幅をかなり広く捉えることもできてしまいます。温度管理の幅が広いことから、つい油断してしまいがちな常温薬品の輸送ではありますが、注意しなければならないポイントはたくさんあります。慎重な計画作成が求められます。
熱媒を使用する際は、あらかじめ恒温庫や常温環境で予熱(準備)をすることになりますが、そのまま輸送容器に投入せずに、しっかりと顕熱を取り除いてから、本来の温度グレードへと戻さなければなりません。キラックスでは、こうした資材の適切な使用方法から、資材の選定・設計、バリデーション計画書の作成まで、トータルコーディネートでお手伝いをさせていただきます。現在、お問い合わせいただいた方には、定温輸送事例集「キラの巻 vol.3」を進呈しています。是非とも弊社営業までお気軽にお問い合わせください。
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