物流の2024年問題|ドライバー不足の現実を知り、具体的対策を講じる
今回は、日本物流の衰退が危惧される「物流の2024年問題」について詳しく解説し、ドライバー不足を中心に物流業界が直面している課題と、有効な対処策について説明していきたいと思います。
走れば走った分だけ賃金がもらえたのは昔の話。トラックドライバーの人手不足は物流業界が抱える慢性的な課題のひとつで、人材集めに頭を悩ます企業も少なくありません。
物流業界の人手不足はただでさえ慢性的ですが、なかでもドライバー不足は顕著で、長時間労働と低賃金が不人気を後押ししてしまっています。
全産業全職種の平均労働時間が2,136時間であるのに対し、中小型トラック運転者の平均労働時間は2,592時間(+456時間)、大型トラック運転者の平均労働時間は2,604時間(+468時間)。
全産業全職種の平均年間賃金が492万円であるのに対し、中小型トラック運転者の平均年間賃金は415万円(▲77万円)、大型トラック運転者の平均年間賃金は454万円(▲38万円)。
手作業による積卸し作業が含まれる厳しい労働条件にも関わらず、いずれも全産業平均に劣る結果となっているのが現況です。
(※出典:【資料4】物流標準化と物流現場の現状|2021年6月17日付|一般社団法人日本物流団体連合会 株式会社日通総合研究所)
(※参照:第1回 官民物流標準化懇談会|国土交通省)
こうした労働環境や諸条件の是正は本来歓迎されるべき取り組みです。しかし、2024年4月1日以降、働き方改革関連法の施行により「自動車運転の業務」に対し時間外労働の上限規制が適用されれば、ドライバーは残業時間を規制されることになります。
この規制はドライバーの収入減を意味するため、さらなるドライバー不足を誘発するとして強く懸念されています。
-目次―
1. 「働き方改革関連法」の改正内容について
1-1. 時間外労働の上限規制とは
1-2. ドライバーに対する時間外労働の上限規制適用
2. 物流業界における2024年問題とは
2-1. 物流会社の売上・利益減少
2-2. ドライバーの収入減少と離職率アップ
2-3. 荷主が負担する物流コストの増大
3. 2024年問題に立ち向かう具体的対策
3-1. 効率改善に向けた物流DXの積極活用
3-2. ドライバーの労働条件の改善
3-3. M&Aによる労働力確保
3-4. パレット輸送で荷役作業時間を削減
4. まとめ
1.「働き方改革関連法」の改正内容について
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」、いわゆる「働き方改革関連法案」が2018年5月31日に衆議院で可決され、同年6月29日に参議院で可決され、同法案は成立しました。
改正事項によって施行時期は異なりますが、2019年4月から順次、施行されています。
主に改正された関連法(一部)は、下記の通り。
・労働基準法
・労働時間等設定改善法
・労働安全衛生法
・じん肺法
・パートタイム労働法
1-1. 時間外労働の上限規制とは
関連法の中で2024年問題の原因となっているのが、労働基準法等の改正による「時間外労働の上限規制」です。時間外労働に対する上限規制が定められたのは日本で初めてのことだといいます。概要は次の通りです。
法定労働時間は1日8時間・週40時間ですが、労使協定、いわゆる36協定で定められる範囲内で企業は社員に時間外労働をさせることができます。36協定で定められる時間外労働の限度は、原則として1ヶ月45時間・1年間360時間以内。
これを上回る時間外労働については、臨時的かつ特別な事情で労使が特別条項に合意した場合に限られ、1年間に6ヶ月までの制限が設けられています。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下を守らなければなりません。また、時間外労働時間だけでなく、休日労働時間を合算した時間数も規制の対象となります。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休⽇労働の合計が単⽉100時間未満
・時間外労働と休⽇労働の合計が2~6ヶ月の平均すべて80時間以内(1ヶ月あたり)
・時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度
(※出典:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
(※参照:時間外労働の上限規制|働き方改革特設サイト|厚生労働省)
1-2. ドライバーに対する時間外労働の上限規制適用
働き方改革関連法は、大企業では2019年4月から施行され、中小企業では2020年4月から施行されています。ただ、すべての事業及び業務において一斉に適用されたわけではありません。
一部、時間外労働の上限規制適用に5年間の猶予が与えられた事業及び業務があります。
(※出典:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
(※参照:時間外労働の上限規制|働き方改革特設サイト|厚生労働省)
自動車運転の業務、つまり運送業のドライバーに対しては、2024年3月31日まで時間外労働の上限規制がありません。規制条件に関する詳細については割愛しますが、2024年4月1日以降から36協定の締結を条件とし、年間の時間外労働時間の上限960時間という制限が適用されます。
しかし、ドライバーに対する上限960時間には疑問が残ります。一般的な労働者における時間外労働の上限720時間とは240時間も乖離しているわけですが、なぜドライバーに対する上限時間だけ長くなっているのでしょうか?
実は、2024年4月から適用が開始されても、他事業及び他業務とは規制の基準が異なるのです。
▼1ヶ月あたりの時間外労働時間の基準
・運送業のドライバー以外:100時間未満(休日労働を含む)
・運送業のドライバー:1ヶ月の上限規定なし
▼年間の時間外労働時間の基準
・運送業のドライバー以外:720時間(休日労働を含まない)
・運送業のドライバー:960時間(休日労働を含まない)
(※出典:トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン|公益社団法人全日本トラック協会)
(※参照:働き方改革特設ページ|公益社団法人全日本トラック協会)
トラックドライバーの時間外労働は、他事業及び他業務に比べて上限時間が長くなっているわけですが、注意しなければならないことがあります。まず、休日労働は上限960時間に含まれませんが、拘束時間の限度には含まれるという点です。
1ヶ月あたりの時間外労働に上限規定がないことや、年間の時間外労働の上限に休日労働が含まれないからといって長時間労働になってしまえば、拘束時間の限度を超えてしまいかねません。
次に、トラックドライバーの時間外労働の基準が将来的に他事業及び他業務と同じ基準(年間上限720時間)になる可能性があるという点です。
働き方改革関連法は、「上限時間は、年960時間とし、将来的な一般則の適用について引き続き検討する旨を附則に規定」と記しており、将来的にはトラックドライバーの時間外労働時間を年間720時間までと下方修正する可能性があることを示唆しています。
つまり、ドライバーの時間外労働時間を徐々に短くしていくことが重要といえます。月間80時間(年間960時間)を基準に管理できるようになり次第、次のステップとして月間60時間(年間720時間)を基準に管理できるよう、今のうちから準備を始めることが大切だといえるでしょう。
(※出典:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の概要 3貢|首相官邸ホームページ)
(※参照:働き方改革の実現|首相官邸ホームページ)
2. 物流業界における2024年問題とは
いま取り沙汰されている「物流の2024年問題」とは、こうした法改正により生じた諸問題をいいます。では、具体的にどのような影響が出るのでしょうか。
2024年4月1日以降はドライバーの時間外労働時間に年間960時間の上限規制が適用されることになるわけですから、労働量は制限され、企業収益はダウンする見通しです。
ここでは、2024年問題で懸念される3点を列挙します。
2-1. 物流会社の売上・利益減少
生産要素に占める資本の割合が低く、売上高に対する人件費の比率が高い産業を「労働集約型産業」と呼称しますが、ドライバーの労働量が売上に依存しやすい運送業は、その代表格といえます。
ドライバーの時間外労働の規制は、すなわち会社全体の労働力減少を意味します。会社全体の対応可能業務量が落ちれば、売上が減少する可能性は極めて高くなります。
ドライバーの労働時間が減ることで人件費を抑えることができますが、地代家賃・減価償却費・リース料といった固定費はそのままなので、会社が得るはずの利益は圧縮されることになります。
総合的にみて、ドライバーの時間外労働の規制は、会社収益にマイナスに作用する公算が大きいといえます。
2-2. ドライバーの収入減少と離職率アップ
物流会社で働くドライバーの多くは時間外労働を行っているケースが多く、残業代を含めた収入を得ることを想定している方も少なくありません。そのため、時間外労働の規制は、ドライバーが従来受け取っていた収入を下げることになります。ドライバーを雇用する会社側も収益が落ちてしまえば、従来と同じ水準の給与を保証することは難しくなります。
時間外労働の上限設定はドライバーとその家族の生活に影響を及ぼすため、ドライバーの離職は進み、今よりもさらに人手不足が深刻化する恐れがあるといえます。
2-3. 荷主が負担する物流コストの増大
売上・利益が減少すれば、物流会社は当然にその収益ダウンを取り戻そうと対策を講じるわけですが、荷主に対して請求する運賃を増額する可能性は高いといえます。物流会社が運賃の値上げによって会社の利益やドライバーの収入を維持しようとする一方で、荷主側からすると物流コストの増加にほかならず負担は大きくなります。
3. 2024年問題に立ち向かう具体的対策
物流会社は、労働量が削減され、深刻なドライバー不足に頭を悩ませ、そのなかにあって収益を確保しなければなりません。「働き方改革」の行き着く先は作業効率の改善・生産性の向上といわれますが、物流会社としても収益を確保するためには、今より生産性を上げるほかに対処法はありません。
ここでは、2024年問題に立ち向かう施策を紹介していきますが、その多くは、かねてより物流業界が抱えてきた課題と紐づくケースもあるのではないでしょうか。とどのつまり、2024年問題に立ち向かう決定的対策は、かねてより物流業界に求められてきた生産性向上の観点にあって、その延線上にしか答えはないのかもしれません。
3-1. 効率改善に向けた物流DXの積極活用
昨今、目まぐるしいスピードで進化するデジタル技術。このデジタル技術を物流業界に浸透させることで、飛躍的な業務効率化が期待されます。
AIやIoTをはじめとするデジタル技術の活用は、コストがかかりますし、システム構築までに時間もかかります。ですが、「労働集約型産業」の代表格である物流業界において省人化に直結する物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用は、業務プロセスを改善するだけでなく、ビジネスモデルそのものの変革に繋がります。
物流DXの積極活用は、組織・企業文化・風土をも改革し、市場において優位性ある立場を確立すると言っても過言ではありません。
▼物流DXの活用事例
・ドライバーの荷待ち時間短縮→トラック予約受付システムの導入
・トラック(車両)の稼働率アップ→車両管理システム・自動配車システムの導入
・配送のスピード化→地図データの活用、配送経路ソフトの導入、ほか
・配送量増加に伴う従業員負担の軽減→在庫管理システムの導入
・倉庫内作業の効率化→AGV(無人配送車)や自動倉庫型ピッキングシステムの導入
・労働時間の削減→打合せや業務指示を対面で行わないコミュニケーションツールの導入
・管理スタッフの労働(拘束)時間の短縮→デジタコ等の運行管理システムの導入
・運行計画の適宜作成及び急な変更対応→動態管理システムの導入
・勤務時間と作業負荷の軽減→勤怠シフト管理システムの導入
・集出荷拠点の集約及び輸配送の効率化→サプライチェーン最適化サービスの導入、ほか
さらに、後続車両が自動運転により追従するシステムを活用すれば「トラックの隊列走行」「連結トラックの導入」が可能になるでしょう。先頭車両以外はドライバー不要という時代も夢ではありません。
AI技術により自動運転する専用の小型EV車やドローンを活用すれば「ラストワンマイル配送の効率化」も見えてきます。近い将来には、街中を自動運転の小型EV車が走りまわっているかもしれません。
3-2. ドライバーの労働条件の改善
前述の通り、時間外労働時間に上限が設けられることで1人あたりの売上は減少します。ということであれば、ドライバーを雇用する物流会社としては、より多くのドライバーを確保しなくてはなりません。2024年問題を前にした現在でも深刻なドライバー不足が叫ばれているわけですから、物流会社としては、ドライバーの労働環境や条件を改善するべく、長時間輸送を見つめ直し、待ち時間をなくして拘束時間を削減する必要があります。
下記のような取り組みは、ホワイト物流推進運動の一環といえるでしょう。
▼モーダルシフト
・可能な範囲でトラック輸送から鉄道・船輸送へ切り替える等して、他の輸送手段を選択肢に入れることで、これまでのように全行程をドライバーに託す必要がなくなる。
▼中継輸送
①トレーラーはそのままで、トラクターだけを入れ替えて貨物の中継を行う「トレーラー・トラクター方式」。
②中継地点で貨物を積み替えるため作業が生じるが、ドライバーがトラックを乗り換える必要がないため、他の物流会社(運送会社)との連携が期待できる「貨物積み替え方式」。
③高速道路のサービスエリアやパーキングエリア、道の駅等のスペースでトラックを乗り換えてドライバーが交代する「ドライバー交代方式」。
▼日帰り運行
・貨物量にもよるが、4トン車のような中型トラックには、日帰りが可能となる中距離を担当させる。業務終了後に自宅へ帰ることができるので、ストレス緩和が期待される。
▼ツーマン運行
2人乗務によるワークシェアリング。 輸送距離が 800km を超えるような長距離輸送においては、16時間という拘束時間の制約もあって目的地に到着するまでに休息を要するが、ツーマン運行であれば拘束時間は最大20時間まで延長されるため、運行時間を延ばすことが可能となる。中継輸送と同じようにリードタイムの短縮がメリット。
3-3. M&Aによる労働力確保
ドライバー不足を一気に補うには、M&Aも効果的です。実際に、2024年問題に対応しようと、いま物流業界ではM&Aのニーズが増加傾向にあるといいます。譲渡企業でも譲り受け企業でも、各々の課題解決にM&Aを決断するオーナーが多く見られます。
▼譲渡企業の場合
人手不足のドライバーを確保し続けることは決して易しい話ではありません。そのうえ、従来よりもドライバーの労働環境や条件を改善が求められるわけですから、先行きを不安視するオーナーがいても不思議ではありません。
特に、業績に悩みを抱えるオーナーや、後継者選びにも悩みを抱える高齢者オーナーにとっては、2024年問題がM&A決断を後押ししている可能性も考えられます。
▼譲り受け企業の場合
深刻なドライバー不足が続く昨今、真っ向から募集をかけたところで、そう簡単にドライバーを確保することはできません。譲り受け企業の多くは、M&A後の従業員引継を必須要件としているほか、自社が拠点を構えていないエリアの企業に譲渡を持ち掛けることも珍しくないようです。
ドライバー確保を必須要件にして、同時に自社のウィークポイントを同時に補うことができれば、事業継続ばかりか事業拡大だって期待できるかもしれません。譲り受け企業の中には、2024年問題を逆手に飛躍のきっかけに捉えている企業もいることでしょう。
3-4. パレット輸送で荷役作業時間を削減
荷主企業の理解を得ることが必要とはなりますが、バラ積み・バラ下ろしの作業をパレット積みに変更することで荷役作業時間は大幅に削減することができます。手積み・手下ろしの労働負荷は大変なものです。荷役作業時間の削減と同時にドライバーの労働負荷を軽減できれば、疲労の度合いもずいぶんと向上することでしょう。
パレットの資材管理や使用するパレットの規格を統一する等々、運用上のルールを決める必要は出てきますが、重量物の輸送頻度も多い食品業界においてパレット輸送は飛躍的な効率アップが期待できます。また、温度管理を必要とする食品には保冷カバーをかぶせることも有効策といえます。
4.まとめ
このように今回は「物流の2024年問題」について解説させていただきながら、ドライバー不足を中心に物流業界が抱える課題と、その対策について考えてみました。ですが、企業の体質が異なれば、抱える課題の性格も異なって当然です。2024年問題を目の前にして、物流企業のすべてが前述のような課題を抱えているわけではありませんし、ここで紹介した対策ですべて乗り越えられるとも限りません。
性急に有効策を探し、策に溺れてしまっては本末転倒です。自社の抱える課題を解決して企業を継続していくには、自社に一番見合った対策を選択するべきです。まずは自社の抱える課題とその要因について、しっかりと向き合うことをお勧めします。
尚、パレット輸送における保冷カバーや大型断熱ボックスのご採用事例、輸送効率化を目的とした貨客混載における保冷ボックスのご採用事例につきましては、営業担当から詳細ご説明さしあげます。是非ともお気軽にお問合せください。
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