地球にやさしい物流、モーダルシフトの課題を考える

業界あれこれ
2022.12.07

モーダルシフトとは、わが国が推進している運送方法です。今でも主力であるトラック輸送は、CO2を大量に排出してきました。当然CO2の大量排出は地球の環境へ悪影響をもたらします。そのCO2の排出を大幅に削減するために、大量輸送が可能な船舶による海上輸送や、電車による鉄道輸送に転換するのがモーダルシフトです。
モーダルシフトに転換することは、メリットが大きいのですが、様々な課題も存在し、なかなか思うように進行しないのが現状です。
わが国の、そして地球の明日を担うモーダルシフトとはいったいどのようなものなのかを、今回は探っていきたいと思います。

目次
1.モーダルシフトのメリット
 1-1.CO2排出量抑制
 1-2.ホワイト物流への寄与
 1-3.補助金が交付される
2.モーダルシフトのデメリットと課題
 2-1.輸送のリードタイムが長くなるケースがある
 2-2.コストが割高になりやすい
 2-3.利便性に優れない
3.モーダルシフト推進に向けた取り組み
 3-1.総合物流施策大綱
 3-2.モーダルシフト等推進事業
 3-3.物流総合効率化法
4.まとめ

1.モーダルシフトのメリット

モーダルシフトとは、トラック等の自動車で行われている幹線貨物輸送を、環境への負担が小さい鉄道や、海上輸送の船舶などの大量輸送手段の利用へと転換することをいいます。まずは、モーダルシフトの大きなメリットを3つご紹介します。

1-1.CO2排出量抑制

モーダルシフトの一つ目のメリットは、大量のCO2排出の抑制に大変効果があること。環境の保全に有力な手段であるといえます。CO2の排出量はトラック輸送に比べ、鉄道は約1/10、船舶は約1/5でしかありません。モーダルシフトへ転換するだけで、鉄道では90%、船舶では80%ものCO2排出量を削減できるのです。
参考:国土交通省HP「モーダルシフトとは」

1-2.ホワイト物流への寄与

モーダルシフトの二つ目のメリットは、ホワイト物流に寄与できる点。今までは一人のトラックドライバーが集荷を行い、長距離運転をして配達までしていたため拘束時間がとても長くなっていました。しかし、モーダルシフトすることにより、ドライバーの運転距離を減らし、拘束時間を減らすことが可能に。よって、ドライバーの負担軽減に繋がります。
更には、鉄道や船舶による大量輸送により、最小限の労働力で大量の荷物を運ぶことができるため、ドライバーの必要数が減り、ドライバー不足の解消にもなります。
関連記事:新しい物流のあり方を考える!ホワイト物流のこれからとは?

1-3.補助金が交付される

モーダルシフトの三つ目のメリットは、補助金が交付されること。国土交通省や一部の地方自治体は以前より、モーダルシフトを推進する事業者に対して、補助金の給付を行っています。たとえば国土交通省の「モーダルシフト等推進事業」では、『計画策定経費補助』や『運航経費補助』などで、上限500〜1000万円規模の補助金が交付されています。
参考:国土交通省HP「モーダルシフト等推進事業について(概要)」

2.モーダルシフトのデメリットと課題

前述したように、さまざまな効果が期待できるモーダルシフトですが、デメリットや課題も存在しています。ここでは、モーダルシフトが進まない理由について考えてみましょう。

2-1.輸送のリードタイムが長くなるケースがある

モーダルシフトによって考えられるデメリットは、リードタイムが長くなること。積み込みから荷下ろしまで、直接トラックで運送するのに比べ、モーダルシフトの輸送では、転換拠点への移動や、駅や港湾での貨物の載せ替えが発生します。輸送量が多いほどリードタイムが長くなります。
また、鉄道や船舶のスケジュールに合わせなくてはならないし、船舶では輸送時間が長くなったり、天候の影響を受けやすく、ダイヤの変更などによって大幅にリードタイムが伸びてしまうこともあります。

2-2.コストが割高になりやすい

次に考えられるデメリットは、コスト面。コストが割高になりやすいことが課題となっています。
鉄道や船舶などモーダルシフトを利用した場合、トラックの輸送と比べてコストを削減できるのは、一般的に500km以上の長距離からだと言われています。ところが、現在の日本では大きく小口輸送が増えており、2017年度の輸送距離別の輸送量をみると、全体の90%以上が500km未満の輸送となっています。そのため、ほとんどの輸送の場合モーダルシフトでは、コストが割高になってしまいます。
そこで、すべての荷物の輸送にモーダルシフトを取り入れるのではなく、近距離・中距離の輸送の場合には、トラック輸送を利用するなどの使い分けが、重要となってきます。
参考:国土交通省HP「物流を取り巻く動向について 令和2年7月」

2-3.利便性に優れない

さらにモーダルシフトのデメリットと言われているのが、利便性に優れないこと。モーダルシフトを活用した輸送では、荷物の動きが駅から駅や港から港に限られるため、臨機応変な対応が難しいと言われています。目的地が駅や港ではない場合は、別途にトラックを手配してコンテナの積み替えを行わなくてはなりません。積み地から荷下ろし地までの簡潔なルートの方が便利です。
更に、モーダルシフトはコンテナによる輸送のため小口輸送には向いていません。それに対しトラック輸送では、1車単位の輸送が可能で、時間や頻度を調整し易く、小回りが利いて利便性に優れています。
また、、どうしてもコンテナの積み替え作業を行う為、荷物の破損リスクが生じてしまいます。その破損の原因によっては、荷主から損害賠償を請求される可能性もあります。

3.モーダルシフト推進に向けての取り組み

以上のようなデメリットや課題があり、なかなかモーダルシフトは進んでいません。しかし、脱炭素社会のための環境問題や、物流の2024年問題の労働力不足のなどの解決手段として、モーダルシフトは大きな可能性を秘めています。そこで、行政が進めている取り組みを紹介します。

3-1.総合物流施策大綱

現在のわが国の物流政策は、2021年6月に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」に沿って行われ、関係省庁が連携して総合的・一体的な物流施策の推進をしています。
近年、新型コロナウイルスの流行で、日本の社会の劇的な変化などもあり、課題がより先鋭化・鮮明化されていると言われています。そうした課題の対応として、これからの日本の物流が目指す方向性として以下の3つの観点を挙げています。
①物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流の実現)
②労働力不足対策と物流構造改革の推進(担い手にやさしい物流の実現)
③強靱で持続可能な物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流の実現)
参考:経済産業省HP「「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」を閣議決定2021年6月15日」

詳しくはこちらのコラムでお話ししています。◎総合物流施策大綱とは?|構造改革と生産性向上の機運高まる

3-2.モーダルシフト等推進事業

モーダルシフトに取り組む企業への支援策の一つに『モーダルシフト等推進事業』があります。
これは支援策の代表的な制度で、CO2の排出削減、物流の省力化によるサスティナブルな物流体系の構築を図るために、荷主企業及び物流事業者等物流に係る関係者によって構成される協議会が実施する、モーダルシフト等の取組みを支援する事業です。『計画策定経費補助』や『運航経費補助』などで、上限500〜1000万円規模の補助金  が交付されています。
参考:国土交通省HP「モーダルシフト等推進事業について(概要)」

3-3.物流総合効率化法

物流総合効率化法は、流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律で、日本の産業の国際競争力の強化や、地球環境の負担軽減、物流業界のドライバーの人手不足解消などを目的とします。
2社以上の業者が連携し、モーダルシフトの取り組みや、輸送の集約、輸配送の共同化など流通業務の総合的な効率化事業を行うものに対し、事業立ち上げや運行経費などの補助、輸送連携型倉庫への税制特例など、様々な支援を行う法律です。
参考:国土交通省HP「物流総合効率化法の概要」

4.まとめ

現在、日本の物流はトラック輸送に依存している状況です。CO2の排出による地球環境への負荷、トラックドライバーの労働条件や人員不足など、トラック輸送による悪い影響が継続しています。モーダルシフトはその課題の解決のための可能性を大きく含んでいます。更に、モーダルシフトの実現はSDGsの達成にも大きく貢献するため、国も取り組みを推進しています。
人にやさしい物流、地球にやさしい物流の実現のためにも、モーダルシフトは絶対に必要な取り組みです。

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